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ヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画祭提供 世界が認めた才能、長谷井宏紀 第1回長編作品

イントロダクション

歌ってごらん、ブランカ。生きるために、自分の居場所を見つけるために──。気鋭の日本人監督による、世界中を魅了した愛と勇気の物語

日本人として初めてヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画祭の全額出資を得た長谷井宏紀監督がフィリピンを舞台に撮影し、各国の映画祭で高い評価を得た話題作。
舞台はカラフルでエネルギーに溢れたマニラのスラム。YouTubeの歌姫として国内外で人気を集めていたブランカ役のサイデル・ガブテロは演技初挑戦ながら、美しい歌声と演技力で観る者を強く惹きつける。
彼女に生きる術を教える盲目のギター弾きには、生涯を通して実際にフィリピンの街角で流しの音楽家として活躍していたピーター・ミラリ。その他、出演者の殆どは路上でキャスティングされている。劇中に演奏される、スペインをルーツにした素朴で温かいフィリピン民謡「カリノサ」は必聴だ。母親を買うことを思いついた孤児の少女ブランカと、盲目のギター弾きの“幸せを探す旅”。本作は、どんな人生にも勇気を持って、立ち向かう価値があることを教えてくれる、心温まる感動作だ。

ヴェネツィア国際映画祭
マジックランタン賞審査員からの言葉

マジックランタン賞=映画祭の全作品が対象の、若者から贈られる賞。過去にチャン・イーモウ監督作『あの子を探して』、ダーレン・アロノフスキー監督作『レスラー』など錚々たる作品が受賞している。

とても若い主人公が、家庭や家族といったものを追求していくことを巧みに物語っている。カメラは常に主人公の視点に置かれ、彼らと共に動き回りながら、彼らの視点を反映している。長谷井監督はマニラのストリートを探求し、自力で生きている孤児やティーンエイジャーらを追いかける。そこから現れるものは日々の生活のリアルな光景であり、いつも劇的な問題の在りかをさがしている“犠牲者コンプレックス”に満ちたステレオタイプではない。

監督はシンプルで性急な言語を使っているようで、それは実のところ、感動的な効果を生んでいるのだ。スラム街を遠くから捉えた風景から始まり、ストリートキッズたちが古い段ボールのうえで生き、眠る路地や歩道を露わにして終わるといったパンショットでは特にそれが明らかである。暖色の色みと明るさは、ビタースイートだが決してナイーブになることがなく、いつもフレッシュで、のびのびとしたストーリーによくマッチしている。

ヴェネツィア国際映画祭
ソッリーゾ・ディベルソ賞審査員からの言葉

ソッリーゾ・ディベルソ賞=ジャーナリストから贈られる、外国語映画賞

いわゆる「ストリートキッズ」の存在という、深刻でありながらしばしば無視されがちな問題を表現した。その貴重な功績を称え、長谷井氏にソッリーゾ・ディベルソ賞を贈る。

この物語は、痛ましくも優しく、心を揺さぶり、同時にコミカルな瞬間もとらえている。さらに、社会から追いやられた人々の友情、老人や身体障害者の姿を──社会が包含するものの価値を見事に捉えている。そのことを讃えたい。

ストーリー

二人でいれば、悲しみは半分。しあわせはたくさん。夏の果ての街角を、愛の歌が通り抜けていく──

窃盗や物乞いをしながら路上で暮らしている孤児の少女ブランカは、ある日テレビで、有名な女優が自分と同じ境遇の子供を養子に迎えたというニュースを見て、“お母さんをお金で買う”というアイディアを思いつく。
その頃、行動を共にしていた少年達から意地悪をされ、ブランカの小さなダンボールで出来た家は壊され、彼女は全てを失ってしまった。途方に暮れるブランカは出会ったばかりの流れ者の路上ギター弾きの盲人ピーターに頼み込み、彼と一緒に旅に出る。
辿り着いた街で、彼女は「3万ペソで母親を買います」と書かれたビラを張り、その資金を得るために窃盗をする。
一方でピーターは、ブランカに歌でお金を稼ぐ方法を教える。ピーターが弾くギターの音に合わせて歌い出したブランカの歌声は、街行く人々を惹きつけていく。
ある時、二人はライブ・レストランのオーナーに誘われ、幸運なことにステージの上で演奏する仕事を得る。十分な食べ物、そして屋根のある部屋での暮らしを手に入れ、ブランカの計画は順調に運ぶように見えた。
しかし、彼女の身には思いもよらぬ危険が迫っていた……。