PRODUCTION NOTE プロダクションノート

飛行機の中で得た着想

脚本家のアニー・ピエラールとベルナール・ダンスロー、彼らの息子エティンヌは、バカンスに向かう飛行機の中で「アウトブレイク ―感染拡大―」の着想を得たという。「フライト中、数列前に座っていた男性が咳き込みだしたのです。今この場所でウイルスに感染するのは本当にマズいと思いました。その時、偶然にも空港の売店で感染症史の特集が組まれた雑誌を買っていたのです。その内容に家族全員が魅了され、取り憑かれてしまいました」とアニー・ピエラールは話す。ベルナール・ダンスローもまた「あたかも警察が捜査する陰謀もののような筋立てを考えました。ケベックでは今までにない設定です。悪人の正体が病だなんて」と物語の素晴らしい語り口を見出した。

初めて役者を想定して書いた役

多くの作品を生み出してきた長いキャリアを通じて、アニー・ピエラールとベルナール・ダンスロー脚本家夫婦は、特定の俳優を念頭において脚本執筆を進めることはなかったという。でも今回「ローラン・ドゥメール公安大臣」を演じたギョーム・シールだけは例外だったよう。前作のドラマ「L’imposteur」(題訳:詐欺師)での彼の演技をとても気に入っていたのだ。「公安大臣という人物を考える時、ある一定の偏見を持つことは簡単です。でもギョームにこの役を演じてもらおうと考えた時、この人物像が別の方向に広がっていくように思えました。ギョームは人間味にあふれた役者で、すぐに彼のことが浮かび、興奮しました」とアニー・ピエラールは言う。「彼は何でも器用にこなすから、不器用であると同時に力強い人物を演じる様子が簡単に想像できたのです」とベルナール・ダンスローも付け加えた。

初めての演技

この作品全体に見られる前向きなポイントの一つは、ナンシー・サンダースが演じる重要な役どころであるネッリ・カジュリクの、周囲に伝播する思いやりの心である。イヌイットのビジュアル・アーティストで彫刻を得意とするナンシーは、この初の演技で輝いている。彼女が演じるネッリ役は、多剤性結核菌の研究をしている博士課程の大学院生で、静かで力強い女性だ。彼女のいとこ・アラシーは5年前にクージュアク(注:住民のほとんどがイヌイットの、北方村落)を離れたが、モントリオールの街にほとんど馴染めていない。哀れみの心と信念をもって、ネッリはいとこが試練、空腹、苦悩を乗り越える手助けをするのだ。「こういう(ネッリのような)人物をテレビで見るのは最高!彼女はポジディブなオーラを放っているし、見ていて気分がよくなります」。そうナンシーは声を上げる。原住民のテレビネットワーク以外で製作されたドラマで、カナダの先住民語のイヌクティトゥット語が聞こえるのも、また気分がいいものだとナンシーは言う。「アウトブレイク ―感染拡大―」の中でこの言語が大きな役割を持っているのはナンシーのおかげだ。そして翻訳や字幕、さらには劇中で食される伝統料理を担当した彼女の母親のおかげでもある。

実際の感染症専門医から学ぶ

製作陣はよりリアルな演出を目指すために、ケベック州の公衆衛生研究所にアドバイスを求めた。ジャン・ロンタン医師とアンヌ・フォルタン医師のアドバイスを受け、「このドラマの悪人、悪質なウイルス」と脚本家が呼ぶウイルスを入念に作り上げたという。感染症専門医のリーダー、カンタン・ビュイ医師を演じたマニ・ソレイマンルーは「実際の感染症専門医が撮影現場に来て話してくれたのです。医療機器の前に立ったり、注射器を手に持ったりする仕草ができる限り本物らしく見えるように手助けをしてくれた。意識しないでもできるように彼らの動作を何度も真似たよ。僕の演技がセリフと同じようにリアルになるようにね」と現実の医師たちによる丁寧なコーチングに満足していた。

女優の2つの挑戦

救急医クロエ・ロワ=ベランジェールを演じるにあたって、メリッサ・デゾルモー=プーランが挑んだのは1つのことだけではなかった。「本当に血が苦手なのです。自分でも流血したら意識を失って倒れてしまうくらい。自分の血が流れる時だけだからよかったけど、ずっと不安な気持ちがありました」「Rupture(原題)」(題訳:断絶/16-19/カナダ・ケベックのTVシリーズ)で弁護士のアリアーヌを5シーズンに渡って演じたメリッサは、今作では視聴者の共感を得にくい役柄に挑んでいる。「クロエの現場での行動は分かりにくいですね。それでも見る人が彼女を好いてくれるようにするのが私のちょっとした挑戦でした。それにそれは俳優の仕事の一部でもあります。完璧な女性ばかりを演じるのは嫌だし、面白くないと思うのです」

大変な撮影、こだわりの編集について

本作の演出を手掛けたヤン・ラヌエット・チュルジョンと彼のチームは、全撮影を約50日で撮り終えた。病院内の撮影はモントリオールにあるオテル=デュー病院の、現在は使われていない病棟などを借りて撮影された。監督によれば「無理難題が多く、挑戦に満ちた」2ヶ月間だったそう。「プロではない俳優、動物、非常に専門的なセッティングに対処しなければなりませんでした。こういったものに取り組むのは初めての経験でしたから、大変でした」とコメントしている。またカリーナ・バカナルとルイ=フィリップ・ラテによる編集は、映像と音に面白い関係を与えている。あるシーンではせきの発作。次のシーンではトラックのエンジンの咳払いのような音。また別のシーンでは白い毛並みが輝くフェレット。次に続くシーンでは女性医師がやはり白い服を着ている姿が映るなど、音や色にこだわった編集演出をみせている。

アウトブレイク ―感染拡大―をより理解するための用語集

イヌイット
カナダ北部などの氷雪地帯に住む先住民族のエスキモー系諸民族の1つ。人種的には日本人と同じモンゴロイドで、エスキモー最大の民族である。遺伝子的にも日本人と共通の祖先が居るとされている。言語は、イヌクティトゥット語。劇中、ネッリやアラシーなどイヌイットの人々が登場する。
緊急衛生研究所
本作の主人公であるアンヌ=マリー・ルクレール博士が所長を務める、カナダ国ケベック州の架空の政府医療研究機関。モデルはカナダ健康研究所(CIHR:Canadian Institutes of Health Research)と思われる。ちなみにアメリカでは、映画『コンテイジョン』(11)の舞台にもなったジョージア州アトランタにある米国疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)がある。
パンデミック
感染症の世界的大流行を意味する。
CoVA【アメリカコロナウイルス】
架空の新型コロナウイルスの名。劇中、緊急衛生研究所がアメリカコロナウイルスの略として【CoVA】(読み:コヴァ)と命名。突如発生し、人から人への感染スピードが非常に高く、致死率も高いウイルスとして描かれている。 
PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)
DNAを、その複製に関与する酵素であるポリメラーゼやプライマーを用いて大量に増幅させる方法。ごく微量のDNAであっても検出が可能なため、病原体の検出検査に汎用されている。劇中では「緊急衛生研究所」のハキムとイェシカが主に研究所内LEVEL3の施設で検査を行っており、この検査で【CoVA】が特定された。

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