ル・コルビュジエとアイリーン追憶のヴィラ

INTRODUCTION イントロダクション

モダニズム華やかなりし時代、二人の天才建築家の惹かれながらも相克する関係を美しき映像で綴る極上のドラマ

昨年、上野の国立西洋美術館が世界文化遺産登録されたことも記憶に新しい近代建築の巨匠ル・コルビュジエ。彼には生涯で唯一、その才能を羨んだと言われる女性がいた。彼女の名はアイリーン・グレイ。2009年にクリスティーズで行われた『イヴ・サンローラン&ピエール・ベルジェ・コレクション 世紀のオークション』において当時史上最高額(約28億円)で落札された椅子を手掛けたことでも知られるアイルランド出身のデザイナー、建築家だ。南仏の海辺に立つ彼女の別荘〈E.1027〉はモダニズム建築史上に残る傑作とされるが、そこは長くル・コルビュジエの作とされ、アイリーンの存在は歴史の影に覆い隠されてきた。そこには光り輝く才能を発揮する彼女に対する、ル・コルビュジエの密やかな嫉妬と欲望が絡まりあう、知られざる愛憎のドラマがあった。時代を超え、後世に影響を与え続ける二人のアーティストの人生を、実際の建築や家具などを用いながら眩しい映像美でつづった『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』。アイリーン・グレイをBBCの人気ドラマ「MISTRESS〈ミストレス〉」のオーラ・ブラディ、ル・コルビュジエを『インドシナ』や『ヒトラーへの285枚の葉書』のヴァンサン・ペレーズ、グレイの恋人の一人で、当時フランスで名を馳せた歌手のダミアをアラニス・モリセットが演じている。

STORY ストーリー

長らく建築史から覆い隠されてきた「壁画事件」。幻の邸宅が辿った数奇な運命ー。

モダニズム華やかなりし1920年代、のちの近代建築の巨匠ル・コルビュジエは、気鋭の家具デザイナーとして活躍していたアイリーン・グレイに出会う。彼女は恋人である建築家評論家のジャン・バドヴィッチとコンビを組み、建築デビュー作である海辺のヴィラ〈E.1027〉を手掛けていた。陽光煌めく南フランスのカップ・マルタンに完成したその家はル・コルビュジエが提唱してきた「近代建築の5原則」を具現化し、モダニズムの記念碑といえる完成度の高い傑作として、生みだされた。当初はアイリーンに惹かれ絶賛していたル・コルビュジエだが、称賛の想いは徐々に嫉妬へと変化していく。そして1938年、事件は起こる。ル・コルビュジエは、アイリーンに断わりなく、邸内に卑猥なフレスコ画を描いてしまう。これを知った彼女はル・コルビュジエの行為を「野蛮な行為」として糾弾し、彼らの亀裂は決定的なものになった。その後、大戦とともに、〈E.1027〉は人々から忘れられ、打ち捨てられてしまう。戦後、すっかり荒れ果てた物件は、競売にかけられる。海運王アリストテレス・オナシスも参加したこの物件を買い戻すために奔走したのは、他でもない-ル・コルビュジエだった。

〈本作の時代背景〉
「狂騒の時代」と呼ばれた1920年代。フランス・パリには多くの芸術家たちが集った。ジャズ、アヴァンギャルド、シュルリアリズム、アール・デコ……そして、モダニズム。様々な芸術運動が小説、詩、演劇、絵画、音楽、建築、映画、写真、ファッションなどあらゆる分野で展開され、近代ヨーロッパ文化の礎となった。同時期を生きたル・コルビュジエやアイリーン・グレイも、様々なアーティストたちと交流を重ね、影響を与え合った。本作のエンドロールには、マルク・シャガール、ピカソ、ジャン・コクトー、藤田嗣治、マルセル・プルースト、ロイ・フラー、ジェームズ・ジョイス、マン・レイ、ジャンヌ・ランバン、マックス・エルンスト、イーゴリ・ストラヴィンスキー、アンドレ・ジッド…など多くの有名アーティスト達の名前もクレジットされている。