禅と骨 Zen and Bones

監督

中村高寛

1997年、松竹大船撮影所よりキャリアをスタート、助監督として数々のドラマ作品に携わる。99年、中国・北京電影学院に留学し、映画演出、ドキュメンタリー理論などを学ぶ。06年に映画『ヨコハマメリー』で監督デビュー。横浜文化賞芸術奨励賞、文化庁記録映画部門優秀賞、ヨコハマ映画祭新人監督賞・審査員特別賞、藤本賞新人賞など11個の賞を受賞した。またNHKハイビジョン特集『終わりなきファイト“伝説のボクサー”カシアス内藤』(10年)などテレビドキュメンタリーも多数手掛けている。

中村高寛
監督の言葉

『ヨコハマメリー』の劇場公開から11年、決して遊んでいた訳でない。いくつかの企画があったが、クランクイン寸前までいきながら、製作条件や予算が合わずに頓挫したり、またインしながらも撮影途中で御破算になったこともある。デビュー作は勢いで撮れるものだが、第二作は容易くないと痛感している時、本作の主人公、ヘンリ•ミトワと出会った。彼の「映画を撮りたい!」という強引ともいえる純粋な想いが、私の境遇と重なり、自分自身にとって「映画とは何か?」を見つめ直そうと思い、キャメラを回しはじめた。ゆえに本作は、禅僧の彼を紹介したり、禅の教えを説いた内容では全くない。

では何故、
タイトルが『禅と骨』なのか?

それはクランクインから8ヶ月後、ヘンリ・ミトワが倒れ、死の淵を彷徨っていた時まで遡る。映画はまだ撮影半ば、このまま頓挫するかもしれない……。そんな不安に襲われながら、私は彼の友人知人や関係者などの周辺取材に没頭した。そして天龍寺のある住職の言葉が、この映画のスタイルを決めるうえでの指針となったからだ。
「坐禅をするだけが“禅”ではない。それは型であって入口に過ぎないんです。型は何でもいい」。彼曰く、どんな仕事をしていても、その道を極めていけば、すべては禅に通じていくというのだ。頭の中で何かが閃いた気がした。私は“映画”という道でそれをやればいいのだと。そしてその結果、ドキュメンタリーの様々な手法のみならず、ドラマ、そしてアニメなどジャンルを縦横無尽に駆け巡ることになった。
「映画とは何か?」。完成した今でもよく分からないが、本作には全てをはぎ取られ、丸裸になった作り手(私)の姿が如実に映っていると思う。私はようやく映画監督として、スタートラインに立ったのかもしれない。

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